申請者らはこれまで、小腸におけるビタミンAの吸収、細胞内転送および代謝に重要と考えられる細胞性レチノール結合タンパク質タイプII(CRBPII)の遺伝子発現が脂肪酸により転写レベルで制御されることを報告してきた。本研究ではその転写調節機構の更なる解明を試み、小腸ビタミン吸収・代謝に及ぼす影響について調べた。コトランスフェクション実験では、脂肪酸をリガンドとする核内レセプターPPARα(Peroxisome proliferator-activated receptor)はRXRα(Retinoid X receptor)とヘテロ二量体を形成し、ラットCRBPII遺伝子プロモーター領域に存在する2つの核内レセプター応答領域(RXREおよびRE3領域)に結合して、リノール酸やアラキドン酸などのPPARαのリガンドによってCRBPII遺伝子の転写活性化を起こすことを明らかにした。また小腸においてはPPARα以外にもPPARδも多く発現しており、これら2つのPPARサブタイプの小腸における機能を検討するためにヒト小腸様細胞Caco-2を用いPPARリガンドの応答性を調べた。その結果、PPARαはPPARδに比べ多くの脂肪酸にリガンド応答性を示し、更にその転写活性化の度合いも顕著であった。また、PPARとコアクチベータとの相互作用についてTwo-hybridアッセイを行なったところ、PPARαは小腸に多く発現が見られたコアクチベータp300とリガンド依存的な相互作用が見られた。また、脂肪酸による小腸CRBPII発現の上昇に伴い、小腸吸収細胞のビタミンAの取りこみやエステル化などの代謝も亢進することをラットやヒト小腸様細胞C2BBe1を用いた実験により明らかにした。本研究から小腸においてはPPARαとPPARδが脇調しあってCRBPIIなどの標的遺伝子の転写を制御するものと考えられた。
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