極めて単純な分子構造の気体であるNOが細胞間情報伝達物質として、末梢血管のみならず神経系、免疫系および内分泌系において重要な役割を果たしていることが近年明らかになりつつある。本研究では、神経内分泌系および自律神経系の統合部位である視床下部におけるNOの役割に着目した。視床下部室傍核および視索上核はバゾプレッシンおよびオキシトシンを産生する神経分泌ニューロンが存在し、NO合成酵素も豊富にある。(1)ウイスター系成熟雄ラットの腹腔内に高張食塩水(1.5モル)を投与し、経時的に視床下部室傍核および視索上核における神経型NO合成酵素mRNAの変化を調べた。また、NMDA受容体拮抗剤(MK801)の効果も検討した。その結果、高張食塩水投与6時間後に有意に増加した。MK801の前投与は、高張食塩水投与による神経型NO合成酵素mRNAの増加に影響を与えなかった。(2)疼痛刺激の効果を調べるために、ラット足底部にホルマリン溶液を注入し、経時的に室傍核および視索上核における神経型NO合成酵素mRNAの変化を調べた。その結果、室傍核においてのみ2時間および6時間後に有意に増加した。(3)食塩感受性高血圧モデルラットを用いて、降圧薬投与後の室傍核および視索上核における神経型NO合成酵素mRNAの変化を調べた。高血圧モデルラットでは、コントロールより有意に増加していた。カルシウムブロッカーを投与することで高血圧が改善した群では、室傍核および視索上核における神経型NO合成酵素mRNAの増加は抑制されていたが、アンギオテンシン変換酵素阻害剤を投与することで高血圧が改善した群では、逆により増加した。以上より、種々の生理的条件下および病態において視床下部におけるNOは重要な働きをしていることが示唆された。
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