研究概要 |
モルヒネ反復使用が痛みに対し耐性を形成すること、また精神的・肉体的依存を形成すること、などは周知の事実であるが、そのメカニズムについては不明な点が多い。我々は、モルヒネの作用を、セカンドメッセンジャーであるcAMPとの関係を遺伝子発現からの観点から検討を行い、1)神経細胞株のNG-108-15やマウスをモルヒネ処理すると、これら核抽出物と一本鎖CRE DNAとの結合活性が低下すること、2)一本鎖CRE DNA結合蛋白が、Purαであること、3)PurαのDNAへの結合を増強する内在性因子がカルモデュリン(CaM)であること、などを報告してきた。今回、PC12細胞を用い、1)モルヒネのCaM遺伝子発現に対する作用、2)強制発現させたPurαの遺伝子発現に対する作用などを検討した。PC12細胞をモルヒネ処理すると、μ受容体を介してCaM mRNAとCaM蛋白量を増加させた。CaM遺伝子発現を調べると、モルヒネは、CaM III遺伝子発現を促進させが、CaM I,CaM II遺伝子発現には影響しなかった。Purαを強制発現させたPC12細胞は、神経突起伸展を引き起こすNerve growth factor(NGF)やフォルスコリン存在下で培養しても、その突起伸展が著明に抑制された。また、CRE-レポーター遺伝子発現活性も抑制された。これら実験過程で、強制発現させたPurαが細胞質にも多量に分布している事に気がついたので、マウス脳Purαの分布を細胞下分画で検討したところ可溶性分画とマイクロソーム分画のPurα含有量は、核抽出物の分画よりも、もっと多いことがわかった。 これらの結果から、モルヒネは細胞内カルシウムセンサーであるCaMの遺伝子発現やCRE配列を持つ遺伝子の転写活性影響を与えることがわかったが、これらの作用以外にも、細胞質でPurαが機能的役割を担っていることが考えられた。
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