脳ミクログリアは虚血や炎症時に活性化され、傷害を受けた細胞を貪食するとともに種々のサイトカインを分泌する。それらのサイトカインのうち、腫瘍壊死因子(TNF-α)は脳実質への炎症細胞の浸潤を引き起こし、またオリゴデンドロサイトにアポトーシスを誘導することから、神経変性疾患の病因に深く関わると考えられているが、最近、神経保護作用を併せ持つことも注目されている。一方、ATPはエネルギー源として細胞質に豊富に存在し、脳虚血や炎症により細胞が傷害を受けた際に大量に漏出する。細胞外に放出されたATPは近傍のミクログリアを活性化し、その機能を制御すると推測されるが、その詳細は明らかではない。本研究ではミクログリアからのTNF-α産生・遊離における細胞外ATPの役割について検討し、ATPがミクログリアから著明なTNF-α遊離を引き起こすことを見出した。ミクログリアにはATP受容体のうち少なくともG蛋白共役型P2Y_2とイオンチャネル型P2X_7が発現している。TNF-α遊離は1mM以上の高濃度のATPにより引き起こされ、P2X_7刺激薬BzATPにも強い活性が認められた。また、これらの反応はP2X_7遮断薬ブリリアントブルーG(BBG)によって抑制されたことから、P2X_7受容体の関与が示唆された。さらに、関与する細胞内シグナルにおいて、Ca^<2+>およびERKおよびp38が重要な役割を果たすことが明らかとなった。ATPおよびBzATP刺激によりTNF-αのmRNA発現が誘導されるが、ERK阻害薬(U-0126)はmRNA発現を強く抑制する一方、p38阻害薬(SB203580)は影響を及ぼさなかった。従って、ERKは遺伝子転写、p38は転写後の調節に関与すると考えられた。また、BBGはERKではなくp38の活性化のみ抑制したことから、P2X_7受容体はp38活性化を特異的に制御することが示唆された。
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