黒質線条体ドーパミン系の内、線条体においては大型ニューロンが伝達物質としてアセチルコリンを含有し、線条体からの出力系ニューロンを興奮させるため、パーキンソン病において重要な役割を担うと考えられている。本研究では、まず、この大型ニューロンに対するニコチンの作用を明らかにするため、ラット線条体スライス標本を用いたパッチクランプ法による研究を行った。大型ニューロンの静止膜電位は、-61.1±1.1mV(n=40)であった。ニコチン(100μM)は、観察した15個のニューロンすべてminiature postsynaptic potential(mpp)の頻度を増加し、それに伴いspikeの頻度も増加したが、静止膜電位には無影響であった。ドンペリドン(1μM)(ドーパミンD2受容体拮抗薬)は、検討したニューロン11個中6個において、このニコチンの作用を抑制した。また、GDEE(10μM)(非選択的グルタミン酸受容体遮断薬)は、検討した10個のうち6個についてニコチン作用を抑制したが、残りの4個のそれには影響を与えなかった。以上より、ニコチンは線条体大型ニューロンに対するグルタミン酸性およびドーパミン性の興奮性神経伝達を亢進し、この結果このニューロンを興奮させると考えられる。 次に、線条体へのドーパミンニューロンの起始核である黒質緻密部の変性脱落がパーキンソン病を惹起するとされており、この部位のドーパミン神経は錐体外路系において重要な役割を担うと考えられる。そこで、黒質ドーパミンニューロンに対するニコチンの作用を明らかにするため、ラット黒質スライス標本を用いたパッチクランプ法による研究を行った。ニコチンは、このニューロンに対して用量依存性(0.01〜10μM)に膜電位を脱分極させ、それに伴い発火頻度を増加した。このニコチンによる脱分極性興奮作用は、通常の灌流派よりCa^<2+>をMg^<2+>で置き換えた低Ca^<2+>灌流派下においても観察された。以上より、ニコチンは後シナプス性に黒質ドーパミンニューロンを興奮させて、この結果線条体でのドーパミン遊離を亢進すると考えられる。これらの成果を第22回日本神経科学会および第29回日本神経精神薬理学会総会で報告した。
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