黒質線条体ドーパミン系におけるニコチン受容体の機能的役割の解明のため、パッチクランプ法を用いて研究を行った。まず、黒質線条体ドーパミン系の内、線条体においては大型ニューロンが伝達物質としてアセチルコリンを含有し、線条体からの出力系ニューロンを興奮させるため、パーキンソン病において重要な役割を担うと考えられている。この大型ニューロンに対するニコチンの作用を明らかにするため、ラット線条体スライス標本を用いたパッチクランプ法による研究を行った。その結果、ニコチンは大型ニューロンの静止膜電位には無影響であったが、miniature postsynaptic potentialの頻度を増加し、それに伴いspikeの頻度も増加させた。このニコチンによる興奮作用はドンペリドン(ドーパミンD2受容体拮抗薬)およびGDEE(非選択的グルタミン酸受容体遮断薬)より抑制された。一方、線条体急性単離細胞を用いたパッチクランプ法において、ニコチンはポストシナプス性の電流を惹起しなかった。以上より、ニコチンは線条体大型ニューロンに対するグルタミン酸性およびドーパミン性の興奮性神経伝達を亢進し、この結果このニューロンを興奮させると考えられる。 次に、線条体へのドーパミンニューロンの起始核である黒質緻密部の変性脱落がパーキンソン病を惹起するとされており、この部位のドーパミン神経は錐体外路系において重要な役割を担うと考えられる。そこで、黒質ドーパミンニューロンに対するニコチンの作用を明らかにするため、ラット黒質スライス標本を用いたパッチクランプ法による研究を行った。ニコチンは、このニューロンに対して用量依存性に膜電位を脱分極させ、それに伴い発火頻度を増加した。このニコチンによる脱分極性興奮作用は、通常の灌流液よりCa^<2+>をMg^<2+>で置き換えた低Ca^<2+>灌流液下においても観察された。スライス標本では膜電位固定法によりα4型ニコチン受容体を確認したが、黒質急性単離標本を用いた研究によりα4に加えてα7型ニコチン受容体も観察された。以上より、ニコチンは後シナプス性に黒質ドーパミンニューロンを興奮させて、この結果線条体でのドーパミン遊離を亢進すると考えられる。これらの成果を第73回日本薬理学会年会、第23回日本神経科学会および第30回日本神経精神薬理学会総会で報告した。
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