研究概要 |
肥満遺伝子産物であるレプチンは脂肪細胞で合成・分泌され、エネルギーの恒常性を維持する中枢すなわち視床下部のレプチン受容体を介して、体重やエネルギー消費の調節に重要な役割を演じている。最近、この視床下部での中枢作用に加え、レプチンは末梢組織において直接その作用を及ぼしていることが報告され始めた。 今回の研究において、筆者らはウシ副腎髄質細胞でのレプチン受容体(ObR)の分子薬理学的特性とその生理作用について検討した。その結果、(1)ウシ副腎髄質細胞膜に対して、^<125>I-レプチンは特異的結合を示し、その見かけ上のKd値は6.6nM,Bmaxは62fmol/mg proteinであった。RT-PCR法により、この細胞にはObRa mRNAの存在が明らかとなった。(2)[^<14>C]チロシンからの[^<14>C]カテコールアミン生合成に対してレプチンは濃度依存的(3-30nM)に促進したが、[^<14>C]DOPAからの[^<14>C]カテコールアミン生合成は促進しなかった。(3)レプチンは、細胞内のチロシン水酸化酵素(カテコールアミン生合成律速酵素)のリン酸化と活性化を促進した。(4)レプチンで細胞を刺激すると、mitogen-activated protein kinases(MAPKs)が活性化された。一方、MAPKキナーゼの阻害剤(UO126)は、レプチンの^<14>C-カテコールアミン生合成の促進を完全に抑制した。(5)アセチルコリンの[^<14>C]カテコールアミン生合成促進作用に対してレプチンは相乗作用を示したが、チロシン水酸化酵素の活性化及びリン酸化に対して相乗作用を示さなかった。 以上の結果より、レプチンは副腎髄質細胞において、そのレセプターを介してチロシン水酸化酵素の活性化及びカテコールアミン生合成を促進することが明らかとなった。この際にMAPKを介するチロシン水酸化酵素のリン酸化の経路とリン酸化以外の経路があることが示唆された。今回の研究により、副腎髄質細胞でのカテコールアミン生合成にレプチンが直接作用する可能性を示したものであり、レプチンのエネルギー代謝を考える上で興味深いものと思われる。
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