本年度はベイシジンの精巣における発現、ベイシジンノックアウトマウスの無精子症の遺伝子治療の試み、ベイシジンのホモオリゴマー形成の解析の3点について研究を進めた。ベイシジンは精巣の精母細胞、精娘細胞のみならず支持細胞であるセルトリ細胞にも発現しており、この場合精母細胞、精娘細胞に接する領域でのみセルトリ細胞内にベイシジン蛋白が局在するという特徴があった。ベイシジンノックアウトマウスの無精子症の遺伝子治療については精細管内へ発現ベクターを注入後電気穿孔法で遺伝子導入する方法をまず試みた。導入直後は生殖細胞、セルトリ細胞の両者に発現が見られるが2週間以上経るとセルトリ細胞のみの発現となり、精子形成を見るには至らなかった。レトロウィルスを用いた発現も試みたがこれはセルトリ細胞でしか発現を得ることができなかった。今後アデノウィルス、アデノ随伴ウィルスを用いた発現が候補となる。ベイシジンのホモオリゴマー形成については、細胞外ドメインのうちN末側のIgドメインにホモオリゴマー形成が担われていることを明らかにした。今後、ベイシジンはN型の長大な糖鎖付加部位を3カ所有し、またその膜貫通部分には親水性であるグルタミン酸が1残基存在するという特徴がある。これらの分子構造上の特徴が生物学的機能にどのように関わっていくのかを検討したい。またベイシジンの細胞内ドメインと相互作用する分子の探求を開始したい。
|