I.シナプス後部情報伝達複合体の解析:Ca2+/Rhoシグナリング間の新たな接点の発見 Rho標的蛋白の中の一つ、Citronがシナプスで発現しており、PSD-95と結合し、NMDA受容体と蛋白複合体をつくることを明らかにした。Citronは、視床や大脳皮質ほぼすべての神経細胞に発現しているが、海馬では抑制性介在細胞のみに、また小脳では深部核の一部の神経細胞にのみ強い発現を認めた。以上から、Citronを含む蛋白複合体コンプレックスは、部位特異的あるいはシナプス特異的に発現調節されている可能性が示唆された。 一方、小脳顆粒細胞特異的遺伝子Cupidinは、LTP誘導遺伝子Homerのisoformであり、小脳顆粒細胞のシナプス形成時のPSDに一過性に発現上昇した。同蛋白は、Cupidin-EVH1領域を介しF-actinと共沈し、C-末端にCDC42/Rac1/Rhoがin vitroで結合した。また、CupidinはHomer同様mGluR1/5と結合するので、mGluRとRho、actin細胞骨格と情報伝達複合体を形成すると考えられた。さらにHomerはIP3受容体結合蛋白であるため、Homerを介する、Rhoと細胞内Ca2+動態の間の新たな接点が明らかになった。 II.シナプス活動依存性カルシウム流入とその下流の遺伝子発現との相関の解析 我々は従来より、シナプスに局在するカルシウム流入源として電位依存性カルシウムチャンネルの重要性を指摘してきた。今回シナプス電流が同チャンネルの開口をどのように制御するかを、初代培養海馬神経細胞にて検討した。同チャンネルの電位依存性などの生物物理学的パラメータは、興奮性シナプス後電位発生時におけるL型カルシウムチャンネルの開口の優位を裏付け、同チャンネルの興奮・遺伝子発現相関における重要な役割を支持した。
|