この数年間の私共や他の研究者の研究から、神経伝達物質の放出にRas類似低分子量G蛋白質であるRab3A系と普遍的膜融合装置であるSNARE系が関与していることが明らかになっている。このうち、Rab3A系は、Rab3Aとその標的蛋白質、さらに種々の活性制御蛋白質から構成されている。私共は、このRab3Aの標的蛋白質であるRabphilin3を世界で最初に発見し、Rabphilin3がプレシナプスにおいてCa^<2+>センサーとして機能している可能性を示唆している。一方、SNARE系は、Rab3A系の下流でシナプス小胞のプレシナプス膜へのドッキングを制御している可能性が高くなっている。私共は、このSNARE系の活性制御蛋白質であるTomosynを世界で最初に発見し、TomosynがRab3A系とSNARE系をつなぐ重要な分子として機能している可能性を示唆している。しかし、Rab3A系によるSNARE系の活性制御機構に関しては、未だ不明な点が多い。そこで、私共は、本研究において、Rab3A系によるSNARE系の活性制御機構の解明を目的に研究を進めた。平成11年度の本研究において、私共は、Tomosynに少なくとも三つのsplicingアイソフォームが存在することを明らかにすると共に、TomosynがそのC末端のVAMP類似領域を介してシンタキシン-1に結合することを明らかにした。また、平成12年度の本研究において、私共は、SNARE系の中心的構成因子であるシンタキシン-1に結合する新たな活性制御蛋白質を同定した。私共が見出した新たなシンタキシン-1結合蛋白質は、その生化学的性状から細胞骨格関連蛋白質の可能性が高い。シンタキシン-1とこの新たなシンタキシン-1結合蛋白質は、ほぼ1:1に結合し、その結合親和性は約数十nMであった。シンタキシン-1とこの新たなシンタキシン-1結合蛋白質との結合は、SNARE系の制御蛋白質の一つであるMunc18によって抑制された。今後、この新たなシンタキシン-1結合蛋白質の二次構造を決定すると共に、SNARE系ならびにRab3A系におけるこの新たなシンタキシン-1結合蛋白質の機能を解明していく予定である。このように、本研究は予想以上に進展し、当初の目的はほぼ完全に達成することができた。
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