研究概要 |
新規蛋白質合成阻害下において活性酸素処理後に血管内皮細胞接着が亢進したが、これは新たな接着因子などの合成誘導による接着亢進ではなく、接着分子の移動や露出による可能性が示唆された。活性酸素種としてはCu,Zn-SODとカタラーゼの両方を投与することで共に接着亢進は阻害されたが、SOD単独投与、カタラーゼ単独投与では効果は認められなかったことによりヒドロキシラジカルの関与が考えられた。ヒドロキシラジカルの由来としてはフェントン反応が考えられ、実際EDTAによって接着亢進が阻害されたことからもフェントン反応由来のヒドロキシラジカルの関与が考えらえた。 次にそのメカニズムの一つの可能性として細胞表面糖鎖構造(glycocalyx)の変化に着目したところ、レクチンを用いたFACSでは糖鎖構造の変化が観察された。また実際にin vitroでは活性酸素はグリコシド結合を切断し得ることから、細胞表面においても活性酸素によって糖鎖構造が切断され、細胞接着の亢進が起っている可能性が考えられた。 活性酸素による細胞接着の直接影響、ならびに細胞表面からの糖鎖の変化についてはこれまで別個に報告はあったが、いずれも具体的なメカニズムは不明であった。今回の研究はその両方を解明するもので、活性酸素が細胞表面糖鎖を修飾して細胞接着性を変化させる新しいメカニズムを提唱するものである。加えて従来不明でnon-specificな因子とされてきた超急性期の細胞接着因子についもその主要なものが活性酸素種である可能性が考えられた。炎症、止血などの際には速やかな接着能の変化が要求され、これらの観点からも活性酸素による直接的な細胞表面の修飾と接着能の変化は合目的的と考えられる。
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