申請者らは線虫C.elegansからRas結合ドメイン(RAドメイン)を持つ新規phospholipase C(Ce-PLC-ε)と新規GDP/GTP exchange factor(Ce-RA-GEF)を見い出し、本研究ではそのヒトホモログ(Hs-PLC-ε、Hs-RA-GEF-I、Hs-RA-GEF-II)のクローニングと機能解析、線虫分子についての遺伝学的解析を行った。 1.Hs-PLC-εの制御機構:Hs-PLC-εはGTP依存性にRas、Rap1Aと結合した。培養細胞ではRasまたはRap1Aのdominant active変異体との共発現により細胞質から細胞膜またはGolgi体に移行した。同様の局在変化は細胞増殖因子(EGF)刺激によってもみられた。PIP2を含むリポソームにRasを取り込ませてHs-PLC-εを加えた再構成実験では、GTP型Ras依存性にPIP2の加水分解が促進された。従って、Ras、Rap1Aとの結合による細胞膜移行そのものがHs-PLC-εの制御機構の本態である可能性が高い。 2.Hs-RA-GEF-I、Hs-RA-GEF-IIの標的分子と制御機構:両分子ともRap1A、Rap2Aに対してGEF活性を示した。Hs-RA-GEF-IはGTP依存性にRap1Aと結合した。RAドメインを欠くHs-RA-GEF-Iでは、試験管内GEF活性は保たれていたが細胞内でのGEF活性が著明に減少していた。Hs-RA-GEF-IはGTP型Rap1Aに結合して膜に移行し、膜上の他のGDP型Rap1A分子に対し作用する可能性がある。 3.Ce-PLC-εの機能:Ce-PLC-ε遺伝子ノックアウト線虫は不妊表現型を示すが、それが生殖器体細胞の収縮障害によることが判明した。同遺伝子は生殖器体細胞以外にも、神経細胞でも幼虫期から強い発現が認められた。Ce-PLC-ε遺伝子ノックアウト線虫で化学走性などの神経機能に関係する表現型が認められ、現在検証を進めている。興味深いことに、PLC-εのマウスホモログも胎生期に神経細胞で発現していた。
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