細胞周期回転における細胞内情報伝達系たんばく質プレニル化の意義とそのメカニズムを明らかにすることをこの研究は目標にしている。 コレステロール合成経路のどの中間代謝産物であるイソプレノイド化合物の役割を解析するために、コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害し細胞増殖を停止させ、タンパク質プレニル化の候補となる中間代謝産物をリポソームに含有させ、細胞内へ送り込む方法を開発した。この手法によりイソプレノイド化合物のなかでゲラニルゲレニルピロリン酸が増殖因子、ホルモン依存性の甲状腺細胞の細胞増殖のDNA合成に主要な役割を演じ、細胞周期の回転を調節していることが明らかになった。リンパ球の幼若化、腎臓におけるメサンジュウム細胞の増殖もまたゲラニルゲレニルピロリン酸によるsmall G proteinのRhoが修飾されることが重要であり、代表的なプレニル化される増殖反応に必須と考えられているsmall G protein Rasのファルネシル化は関係のないことが判明した。さらにこのシステムは培養神経細胞の生存維持に必須の機構であることが新たに判明した。 これらをふまえてゲラニルゲレニルピロリン酸の合成調節の重要性があきらかとなったのでこの合成酵素であるゲラニルゲレニルピロリン酸合成酵素の遺伝子クローニングを試みた。クローニングの手法として無細胞系でなく、大腸菌を用いる脂質代謝酵素遺伝子の機能アッセイ法および発現クローニング法を工夫し遺伝子を同定した。植物の色素であるカロテノイド類がプレニル化合物から合成されることに注目した。ゲラニルゲレニルピロリン酸合成酵素のみを欠く色素合成遺伝子群を持つ大腸菌に候補遺伝子をクローニングすることで着色した大腸菌コロニーを分離できる系を構築した。この新しい系を用いてヒト肝癌細胞からゲラニルゲレニルピロリン酸合成酵素の遺伝子をクローニングできた。植物の遺伝子群システムで動物細胞の遺伝子が分離・同定できることを示した。クローニングされた遺伝子は300アミノ酸であり、また肺と睾丸で強く発現していた。ヒト以外の動物の遺伝子とはほとんどNorthernブロットでハイブリダイズしなかったので種間の相同性は低いと考えられる。新たに工夫した機能アッセイを用いるクローニング方法の有用性を示す結果となった。
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