研究概要 |
真核細胞は遺伝情報を、安定に保ち、正確に発現すなわち細胞分化を維持するために、多様な機構を働らかせている。これらの機構の一つはクロマチンとよばれるDNA高次構造である。クロマチン構造は遺伝子転写を抑制するが、転写調節因子はクロマチンの再構築因子やヒストンアセチル化酵素とともにこの抑制を一部解除する。ACF,NAP-1はクロマチンの形成因子として精製し、さらにACFはクロマチンの再構築活性をも有していることを明らかにした。遺伝子転写におけるクロマチンの再構築と、ヒストンの修飾がどのような調節を受けているか興味深い点であるが、我々はクロマチンのリモデリングがヒストンのアセチル化に先行することを明らかにした。これをグリセロールグラジエントの密度勾配遠心を用い、詳細に解析したところ、転写活性化因子GAL4-VP16はアセチル化とは無関係にDNAに結合することがわかった。一方p300を加えヌクレオソーム中のヒストンをアセチル化すると、ヌクレオソーム中のH2A-H2BのみNAP-1のフラクションにトランスファーされていることがわかった。すなわちp300によるヒストンのアセチル化はクロマチンの再構築の後に起こりクロマチンを流動化させていると考えている。この流動化は遺伝子転写において転写因子複合体の集合に重要な役割をはたしていることが考察される。我々はヒストンのアセチル化がクロマチンを流動化させることを示し、遺伝子転写開始機構の一端を明らかにした。今後もわれわれの系を用いて、ヒストンのアセチル化やリン酸化、さらにはDNAのメチル化などと遺伝子発現調節の機構が明らかにされるであろう。
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