研究概要 |
細菌感染に対する宿主細胞の応答としては,病原性赤痢菌がマクロファージにアポトーシスを誘導するという報告がすでに米国の研究グループから出されている.私たちは本研究初年度に,前骨髄性培養細胞U937を用いて,赤痢菌によって惹起される細胞死が細胞分化に依存することを示した.本年度は,この実験事実に基づいて細胞死誘導の分子機構をさらに詳細に解析した.その結果,赤痢菌の病原性に関わる細胞死はアポトーシスと区別されことが明らかとなった.病原性を持つ野生株を薬剤で殺菌し,細胞にかけると典型的なアポトーシスが起こった.細胞侵入性を欠く変異株では生菌でもアポトーシスが誘導された.いずれの場合も菌は細胞内に入っておらず,細胞表層のToll様受容体などを介して情報伝達系が活性化されていると考えられる.なお,レチノイン酸で分化誘導したU937細胞では,この方法ではアポトーシスは全く起こらなかった.分化に伴う受容体介在アポトーシスに対する耐性化との類似性からも興味深い.一方,病原性を有する野生株赤痢菌は,分化の有無にかかわらずU937細胞に細胞死を引き起こしたが,細胞は形態的にも生化学的にもアポトーシスとは異なった様相を呈した.またこの細胞死は,サイトカラシンで抑えられることから,細胞内に侵入した病原細菌によって誘導されると考えられる.以上の結果から,細菌感染に伴う細胞死はアポトーシスと非アポトーシスが別々の経路で引き起こされることが明らかとなった.
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