研究概要 |
本研究は先に私たちが発見した食細胞分化とアポトーシス感受性の関係に基づいている.前骨髄性培養細胞U937細胞をインターフェロンガンマ(IFN),レチノイン酸(RA),活性型ビタミンD(VD)で処理すると活性酸素産生能をもつ細胞に分化誘導されるが,Fas抗原や腫瘍壊死因子受容体を介したアポトーシスに対する感受性には大きな差が生じる.IFN処理した細胞(U937IFN)では細胞増殖が活発になり,アポトーシス感受性も高まった.一方,RAやVDで分化誘導した細胞(U937RAとU937VD)では細胞死受容体を介したアポトーシスが著しく抑制された.これらのアポトーシス耐性細胞では,受容体を刺激してもカスパーゼ3および8の活性化が起こらず,受容体からカスパーゼ8までの経路で情報伝達に変化をきたしたと考えられる.プロテアソーム阻害剤やスタウロスポリンなどのミトコンドリアを巻き込むアポトーシス誘導に対しては,U937RAおよびU937VDは抵抗性を示さず,カスパーゼ3の活性化も惹起されたので,カスパーゼ3以降のアポトーシス情報伝達系は損なわれていないはずである. 細菌感染に対する宿主細胞の応答としては,病原性赤痢菌がマクロファージにアポトーシスを誘導するという報告がすでに米国の研究グループから出されている.私たちは本研究初年度に,U937を用いて,赤痢菌によって惹起される細胞死が細胞分化に依存することを示した.すなわち,U937RAやU937VDでは病原性赤痢菌によって急激な細胞死が引き起こされた.ところが,アポトーシス細胞に見られる細胞の凝縮やアポトーシス小体の形成が観察されず,生化学的解析からもカスパーゼ活性化や染色体DNAのはしご状断片化は認められなかった.一方,U937IFNは感染でアポトーシスが引き起こされた. 平成12年度は,この実験事実に基づいて細胞死誘導の分子機構をさらに詳細に解析した.その結果,赤痢菌の病原性に関わる細胞死はアポトーシスと区別されことが明らかとなった.病原性を持つ野生株を薬剤で殺菌し,細胞にかけると典型的なアポトーシスが起こった.細胞侵入性を欠く変異株では生菌でもアポトーシスが誘導された.いずれの場合も菌は細胞内に入っておらず,細胞表層のToll様受容体などを介して情報伝達系が活性化されていると考えられる.なお,U937RA細胞では,この方法ではアポトーシスは全く起こらなかった.分化に伴う受容体介在アポトーシスに対する耐性化との類似性からも興味深い.一方,病原性を有する野生株赤痢菌は,分化の有無にかかわらずU937細胞に細胞死を引き起こしたが,細胞は形態的にも生化学的にもアポトーシスとは異なった様相を呈した.また,この細胞死はサイトカラシンで抑えられることから,細胞内に侵入した病原細菌によって誘導されると考えられる.以上の結果から,細菌感染に伴う細胞死はアポトーシスと非アポトーシスが別々の経路で引き起こされることが明らかとなった.
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