WT1遺伝子は小児腎腫瘍Wilms腫瘍の原因遺伝子として単離されたzinc finger型の転写因子で従来は癌抑制遺伝子として位置付けられてきた。しかし、われわれはこれまでにWT1遺伝子が白血病細胞においてWT1遺伝子が癌抑制遺伝子というよりはむしろ癌遺伝子様の機能を果たしていることを明らかにしてきた。さらにわれわれは固形癌におけるWT1遺伝子の発癌への関与について検討し、種々の固形癌細胞株(肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌、卵巣癌など34種)において1)野生型WT1遺伝子が様々な程度(34種中6種で高発現、11種で中発現、11種で低発現、6種で発現を認めず)に発現されていること2)WT1アンチセンスオリゴDNAで処理するとWT1を発現しているがん細胞の増殖は抑制されたがWT1を発現していないがん細胞の増殖は抑制されなかったことより野生型WT1遺伝子が種々の固形癌細胞において高発現されその増殖に関与し、癌遺伝子様の機能を果たしている可能性があることを示した。 肺癌は近年発生頻度が上昇の一途をたどっている。しかしながら肺癌は化学療法が無効で、根治切除のできなかった患者に対する有効な治療法は現在では無い。この研究は1)臨床検体を用いた研究によってWT1遺伝子の肺癌への関与を明確にすること、2)細胞株を用いた研究によって明らかになったWT1遺伝子が果たす癌遺伝子様機能の機序を明らかにすることを目的とする。肺癌に対するWT1遺伝子の関与とWT1遺伝子が果たす癌遺伝子様機能の機序が明らかになれば現在有効な治療法のない肺癌に対する新しい治療法の開発につなげることができる、と考えられる。1)については現時点では少数例の解析ではあるがWT1遺伝子が肺癌組織において肺正常組織に比較して10倍以上の高発現をしていることを明らかにした。平成12年度はさらに症例を積み重ねて解析を続けるとともに2)についても解析を続けていく。
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