われわれはこれまでに白血病においてWT1遺伝子が癌抑制遺伝子というよりは癌遺伝子様の機能を果たしていることを明らかにしてきた。さらに種々の固形癌(肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌など)細胞株において1)変異のない野生型のWT1遺伝子が多くの細胞株において様々な程度に発現されており、2)これらのWT1発現細胞株の増殖がWT1アンチセンスオリゴDNAにより特異的に抑制されることを明らかにし、WT1遺伝子が固形癌においても癌遺伝子様の機能を果たしている可能性を明らかにした。そこで近年臨床的重要性を増している肺癌に注目し、肺癌患者20例から手術時に切除された肺のうち肺癌および正常肺組織におけるWT1遺伝子の発現量をReal time RT-PCR法を用いて定量した。肺腺癌14例中10例で中程度の発現を2例で低発現を残りの2例ではWT1遺伝子を検出しなかった。肺扁平上皮癌6例中1例で高発現を、4例で中程度の発現を、1例で低発現を認めた。一方、正常肺組織では12例中6例で低発現を認めたが、残りの6例ではWT1遺伝子を検出しなかった。以上の結果より肺癌組織におけるWT1遺伝子の発現レベルは正常組織のそれに比べ10-3000倍以上高いことが明らかになった。この遺伝子発現量の差はWT1遺伝子の肺癌の発癌への関与を示唆するとともにWT遺伝子産物が免疫療法の標的となる可能性を示唆している。
|