創傷治癒過程で見られる組織再生・修復の分子機構を細胞膜結合型増殖因子HB-EGFのプロセシング(shedding)の側面から解析し、以下の結果を得た。 1)HB-EGF shedding阻害剤として低分子性合成化合物KB-R8301を同定し、培養ケラチノサイトを用いたin vitro創傷実験、およびマウスを用いたin vivo創傷実験において、KB-R8301の添加によりケラチノサイトの遊走が顕著に阻害され、創傷治癒が抑制された。また、この創傷治癒抑制はリコンビナントHB-EGFの添加により完全に回復した。このから、皮膚創傷時において、内在性のHB-EGFがsheddingを受け、EGFRの活性化を誘導する事が強く示唆された。これらのことから損傷組織の修復時においてHB-EGF等の膜結合型増殖因子のsheddingが極めて重要なステップである事が示唆された。 2)HB-EGF shedding酵素を同定する為にKB-R8301固相化カラムを作製をアフィニティー精製を試みた。まず、KB-R8301をビオチン化しアビジンセファロースへの固相化を行った。KB-R8301のビオチン化によりHB-EGF shedding阻害活性は30%程度に低下したが、アフィニティーカラムとして使用し、ヒト繊維芽肉腫細胞株HT1080細胞のホモジネートより、KB-R8301結合蛋白質として3種類の蛋白質を単一標品にまで精製した。現在、蛋白質の一次構造を解析している。今後これらの蛋白質のcDNAを単離し、細胞に発現させ、HB-EGF shedding活性を検討する。
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