MPP+によるミトコンドリアDNA複製阻害とD-loopの解離作用 1-methyl-4-phenylpyridinium ion(MPP+)は選択的に黒質細胞に蓄積し人工的にパーキンソン病様の症状を起こすことが知られている。その作用機序としてミトコンドリア電子伝達系の複合体Iを阻害し、ATP産生を障害することによると考えられている。新たなMPP+の作用として、MPP+が核DNAの合成は阻害せず、選択的にミトコンドリアDNA複製を阻害することを見い出した。このミトコンドリアDNA複製阻害がミトコンドリアDNAの減少をひき起こし、ミトコンドリア機能異常をひき起こす原因の一つではないかと考えている。MPP+はミトコンドリアDNA複製ポリメラーゼであるDNAポリメラーゼgのDNA伸長反応を阻害しなかったが、細胞レベルですみやかに、新生H鎖の喪失をひき起こし、複製開始の初期の反応に作用していると思われた。このMPP+の新生H鎖の喪失作用は単離ミトコンドリアにおいて添加後わずか1分から観察されることから、新生H鎖の合成の阻害ではなくすでに存在するD-loopに直接作用することが示唆される。実際、分離したミトコンドリアDNAに作用させてもD-loop構造の解消が観察されることから、MPP+の細胞レベルでの複製阻害は複製中間体であるD-loopを直接不安定化という全く新しい機構によるものであることが明らかになった。現在、この複製中間体の不安定化作用がD-loop構造中に存在するHolliday構造様の分岐構造のコンフォメーションの変化による分岐点移動の促進によるとの結果を得ており、さらに解析を続けている。
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