STAT3をマクロファージ、皮膚、乳腺で特異的に欠損したマウスを、遺伝子欠損マウスの作製技術を応用し、作製・解析した。マクロファージでSTAT3を欠損させたマウスでは、慢性腸炎を発症した。STAT3欠損マクロファージは、IL-10による抗炎症作用が欠失し、エンドトキシンによる炎症性サイトカインの産生が異常に増加するなど、異常に活性化された状態を示した。これらの結果は、マクロファージにおけるIL-10によるSTAT3の活性化が、抗炎症作用の発揮に必須であることを示している。皮膚でSTAT3を欠損させたマウスでは、皮膚創傷治癒過程が異常に遅延した。STAT3欠損皮膚細胞は、成長因子による増殖反応に異常はないものの、運動性の亢進が全く認められなかった。このように、STAT3は皮膚において、細胞の運動性亢進を司り皮膚創傷治癒に関わっていることが明らかになった。乳腺でSTAT3を欠損したマウスでは、乳児の離乳後の乳腺の退縮が異常に遅延した。これは、乳腺上皮細胞のアポトーシスが起こらないためであった。このようにSTAT3は、乳腺の退縮に関与していることが明らかになった。以上のように、STAT3を組織特異的に欠損させたマウスの解析から、STAT3が生体内において、種々の組織で様々な反応に深く関与していることが明らかになった。
|