研究概要 |
コンディショナル・ノックアウト法により、STAT3をさまざまな細胞や組織で特異的に欠損したマウスを作製し解析した。T細胞ではIL-6によるアポトーシスの抑制に必須であることが明らかになった。マクロファージではIL-10による活性抑制に必須であることを明らかにした。さらに、この変異マウスでは、異常なマクロファージの活性化にともない慢性腸炎を発症した。B細胞でSTAT3を欠失したマウスでは、B細胞の分化・成熟、増殖反応は正常であったが、血清中のIgを測定すると、IgM濃度は正常だがIgG1濃度が著明に減少し、さらにIgG2b,IgG3,IgAの濃度も半分程度に低下していた。このことから、STAT3はB細胞においてIgのクラススイッチあるいはIg産生細胞への最終分化に関与していることが明らかになった。また免疫系だけでなく、皮膚でSTAT3を欠損させたマウスは、創傷の治癒過程が著明に遅延した。これは表皮細胞の成長因子による運動性亢進作用が消失した結果であった。乳腺でSTAT3を欠損したマウスの雌では離乳後の乳腺の消退が著明に遅延した。このように、STAT3はさまざまな組織で、多彩な生理現象に深く関与していることが明らかになった。 マクロファージで特異的にSTAT3を欠損させたマウスでは、マクロファージにおいてSTAT1の恒常的活性化が認められたため、慢性炎症の発症にSTAT1の関与が考えられた。そこで、STAT1とSTAT3を同時に欠損したマウスを作製した。すると、STAT1/STAT3二重欠損マクロファージでは、TNF-α産生が亢進しており、このマウスはSTAT3単独変異マウスと同様に慢性腸炎を発症した。このことは、STAT3欠損によりIL-10によるマクロファージ不活性化の誘導がなくなると、IFNによるSTAT1活性化からの活性化経路と非依存性にマクロファージの活性化に至る経路が存在することを示唆している。
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