筋萎縮性側索硬化症の発症機構解析の為の新たな実験系を確立する為、in vivoにおいて運動ニューロンの発生・分化を開始させうる事が示された転写因子(MNR2)の活性を利用し、新たなin vitroにおける運動ニューロン実験系となる事が期待できる運動ニューロンの特徴を有する培養細胞株を、まず樹立する事を試みた。P19細胞は、神経細胞の分化を解析するためのin vitroのアッセイ系として、過去より数多くの細胞学的・組織学的解析が成されてきた。P19細胞の細胞周期は比較的短く、培養細胞として大量に準備することが容易である。一方、その神経細胞発生能は、細胞分裂を多数繰り返した後においても失われることはない。また、胚性癌細胞株由来であるにも関わらず、その核型は正常である。神経細胞分化後においては、数多くの生体内の成熟神経細胞に見られる様々な分子群の発現が認められる。 これらP19細胞が示す培養細胞株としての利点に立脚し、これをMNR2のin vitroにおける発現系として、MNR2発現ベクター(pCAGGs-MNR2-Neo)をP19胚性癌細胞株に導入し、薬剤(G418)にてスクリーニングし、Northern blottingにてMNR2の発現を解析した結果、数十種類のMNR2安定発現P19細胞亜株を得た。MNR2の安定発現を示した上記の細胞株のうち、MNR2の発現が最も高い二種類のP19細胞亜株を解析対象として選択し、レチノイン酸による神経細胞誘導操作を加え、運動ニューロンに特徴的な様々な分子マーカー(Isl1、Isl2、Lim3等のホメオボックス遺伝子群)の発現を免疫組織学的に解析した。レチノイン酸を用いた神経細胞誘導操作においては、MNR2安定発現P19細胞亜株の神経細胞分化に伴って、運動ニューロンに現れる、いずれの分子マーカーの発現誘導も認められなかった。
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