我々はアルツハイマー病(AD)の神経細胞変性及び神経細胞死に焦点をあて、神経細胞変性に伴う分子異常を検索している。その過程で、ADの変性神経細胞で、イソアスパラギン酸メチル転移酵素(PIMT)の発現が亢進していることを見い出した。そこで、PIMTを標的遺伝子破壊法により欠損させ、イソアスパラギン酸残基(isoAsp)を含む蛋白質の蓄積が人為的に亢進するような動物モデル(PIMT欠損マウス)を作製した。これまでの解析で、PIMT欠損マウスの個体発生は正常に起こるが、生後5週以降、神経細胞変性が出現し、マウスは正常の神経機能を維持できずに痙攣発作を呈し、12週までに100%死亡することを明らかとした。また、ホモ接合体マウス脳では、野性型マウス脳に比べisoAspが7〜10倍に増加していることが判明している。神経変性モデルマウス(PIMT欠損マウス)に蓄積したisoAsp含有タンパク質の検索を試みた。 イソアスパラギン酸を含むトリペプチドを抗原にして、isoAsp残基を特異的に認識する抗体の作製を試みた。得られた抗イソアスパラギン酸残基抗体を用いた解析から、正常マウス脳には認められず、PIMT欠損マウス脳に認められる見かけの分子量43kDa(p43)のタンパク質を発見した。この分子は欠損マウス脳にisoAsp残基が蓄積しはじめる4週齢以降に認められた。また、p43は欠損マウス脳のシナプトソーム画分に特徴的に分布していることが判明した。また、アミノ末端領域を認識する抗シナプシン1モノクローナル抗体を用いた解析から、モノクローナル抗体の反応性がPIMT欠損マウス脳において量的低下を伴わず、著しく低下することを発見した。シナプスタンパク質であるp43とシナプシン1のisoAspの蓄積がこれらのタンパク質の構造変化を生じ、シナプス機能に重大な影響を与えたと考えられた。
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