我々は大腸癌で発癌・進展過程への関与が指摘されているcyclooxygenase-2(COX-2)について免疫組織学的に検索し、その発現が肺腺癌症例の約70%の症例で有意に高く、原発腫瘍に比べてリンパ節転移巣において極めて高い発現が認められたことを報告してきた。本研究において、ヒト非小細胞性肺癌細胞株NCI-H460から独自に樹立したリンパ行性ならびに血行性に短期間で自然転移する皮下移植転移モデル系NCI-H460-LNM35(LNM35)のmicroarray法を用いた発現プロファイリングやノザン解析によって、COX-2を含む炎症性サイトカイン関連遺伝子群の発現バランスの変化がLNM35の浸潤・転移能に相関することを見出した。また、LNM35のin vitro実験系を用いた解析によって、複数のCOX-2選択的阻害剤が内服時に血中到達可能な低濃度でLNM35のin vitro細胞運動能と浸潤能を強く抑制し得ることから、リンパ行性に激しく自然転移するLNM435におけるCOX-2発現の有意な亢進は、COX-2がヒト肺癌の浸潤・転移過程に関与している可能性が示唆された。さらに、COX-2を標的分子とした癌の増殖・浸潤・転移や術後再発に対する新たな制御方法の開発とその臨床応用を目指し、複数のCOX-2選択的阻害剤についての経口摂取によるLNM35のin vivo実験系を用いた詳細な検討を行い、COX-2選択的阻害剤の経口投与群で癌細胞の増殖やリンパ節転移、遠隔転移、術後再発を強く抑制し得ることを確認した。以上の研究成果によって、ヒト肺癌の浸潤・転移過程にCOX-2を含む炎症性サイトカイン関連遺伝子群の発現バランスの変化が深く関与している可能性と、COX-2を標的分子とした癌の増殖・浸潤・転移や術後再発に対する新たな治療法の有効性が強く示唆された。
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