ヒトに発生する癌の分化の方向はその癌の生物学的性質に大きく影響する場合がある。肝様腺癌は異所性の肝細胞形質発現のためと考えられる著明な血管親和性をを有し予後不良な癌であることが、これまでの我々の研究で明らかになってきた。本研究では肺、胃、膵、および子宮内膜に発生した肝様腺癌における肝細胞の産生する血漿タンパク質および肝細胞形質発現に関与すると考えられる核内転写因子の発現をRT-PCRおよび定量的RT-PCRにて検討した。肝様腺癌におけるalbuminの発現をそれぞれの臓器の通常型腺癌、正常組織と比較した場合、いずれの臓器でも肝様腺癌では役1000倍の強い発現が認められた。Albuminの発現に関するhepatocyte nuclear factor(HNF)-1α、HNF-4の発現を検討したところ、HNF-1αの発現はすべての肝様腺癌で認められた。HNF-4は、肺、膵では肝様腺癌でのみ発現の上昇が認められた。これらの臓器ではHNF-4の発現が腺癌が肝細胞形質獲得に重要な意味をもつ可能性が示唆された。胃、子宮内膜では、通常型癌で既にHNF-4の高発現が見られ、肺、膵とは異なったメカニズムの関与が考えられた。本研究によって、ヒト癌細胞におけるHNFの高発現が癌の肝細胞への異分化に関与する可能性を示した。
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