研究概要 |
本年度は大腸癌の血行性転移を規定する因子の同定を目的として、以下の検討をおこなった。検討症例としては、転移の生じたときの状祝を探る目的で異時性血行転移群をとりあげた(62症例)。コントロールは同時期に手術となった進行癌で5年以上再発・転移のないものである(72症例)。パラフィンブロックからの酵素抗体法でマトリックス分解酵素のうちのMMP-9(gelatinase B),urokinase-type plasminogen activator receptor(uPAR),CD68(マクロファージマーカ)を染色し、それぞれ定量表現をおこない、上記二群間で比較検討した。検討部位はいずれも陽性細胞の集簇する癌の先進部(tumor-host interface)である。【結果】MMP-9とCD68の陽性細胞の数とも異時性転移群で有意に低く、uPARには差をみとめなかった。【考察】すでに我々が明らかにしているように、MMP-9陽性細胞は好中球とマクロファージである。よってMMP-9が低いことはこれら細胞の少なさを意味する。一方uPAR陽性細胞には差が無かったことは、その陽性細胞の主体がマクロファージであることを考えると矛盾している。これは血行性転移群では線維芽細胞を主体にuPAR陽性細胞が出現しているためであることが判明した。MMP-9,uPARとも癌の浸潤転移論から考察されてきた。しかし、本研究によりそれらが宿主反応性細胞に由来する場合、癌の進展に対して逆相関することを示している。ことにマクロファージの血行性転移への抑制効果が推測された。
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