研究概要 |
研究代表者らは、抗てんかん剤に対し抵抗を示す難治性てんかんの病態を一歩でも解明する目的で、本研究においては対象を難治性てんかんの手術時に得られる脳組織で病理的にcortical dysplasia (CD)と診断された検体を用いて研究を行った。研究代表者はCDにおいて特徴的に認められる巨大神経細胞において神経骨格蛋白のうち特に未熟な脳に発現するMAP2cやMAP1BおよびそのmRNAが強く発現していることを本研究開始までにつきとめていた。さらにシナプス生成の構築、再構築に強く関与するgrowth-associated protein GAP43も予備実験においては同様なパターンの発現を示す結果を得ていた。本研究においてまずGAP-43cDNAを用いてin situ hybridizationを行いGAP-43mRNA発現がCDの大多数の症例で強く発現していることを確認した。このことで巨大神経細胞がてんかん原生に強く関わっている可能性が高いと判断されたため、次に興奮性受容体であるグルタミン酸受容体の発現を分析した。すなわちアメリカ合衆国カルフォルニア大学サンディエゴ校のモンタール教授(生物学)よりNMDAレセプターNR1cDNAの提供を受け、トロント大学トロント小児病院ベッカー教授より提供された小児てんかん手術検体20例を用いてCDにおけるNMDA R1のmRNA発現の分析を行った。NMDAR1,cDNAをサブクローニングした後in situ hybridizationによりCDにおけるNMDAR1受容体mRNAの発現を分析した。結果としては巨大神経細胞のシグナルは正常対照に比較して強く認められた。また極性に乏しく層構造の乱れを示す神経細胞も巨大神経細胞ほどではないが正常対照よりやや強いシグナルを示した。以上の結果は光学的顕微鏡で判断し、さらにデジタル密度解析装置を用いて半定量的に評価を行い同様の結果を得た。以上の点からCDを示す部位でのてんかんをきたしうる機序としてNMDAR1受容体の異常発現が関連していることが示唆された。
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