我々はほ乳類の性決定とその病態の分子機構の研究を進めている。最近、この分子機構を制御する転写因子群が次第に明らかにされてきて、それらの蛋白質間の相互作用の解明が重要なテーマとなっている。我々は平成11年度において性決定とその病態に関わる二つの転写因子、すなわちSRYとWT1が相互作用する可能性を示す以下のような結果を得た。 1)WT1はin vitroおよびin vivoにおいてSRYと直接結合した。 2)WT1はSRYと協調的にSRY結合配列を持つプロモーターからの転写を活性化した。 3)本邦で報告されたヒトの性逆転(Y染色体を持ちながら女性の形質を示す)の症例に見られたSRYの変異体L163terは、WT1との結合活性が減少していることを見いだした。 平成12年度は、このWT1とSRYの分子間相互作用についてさらに検討を進め、これまで直接DNAに結合するクラシカルな転写因子と考えられてきたWT1が、SRYとの結合を介して間接的にDNA上にリクルートされることを明らかにした。さらに、性腺の形成不全を症状とするDenys-Drash症候群に見られるWT1の変異体では、SRYとの協調的な転写活性化もSRY依存的なDNA上へのリクルートもほとんど検出されなかった。以上のことから、WT1とSRYの結合および協調的な転写の活性化は、ヒトの性決定および性逆転に関わる重要な現象であることが示唆された。 以上の成果については、現在、論文作成中である。
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