Helicobacter pylori(H.p)感染に伴う胃粘膜の組織学的変化について、本施設で1950年以降に切除された胃手術材料86例を用いて、昨年度までに検索した結果から、H.p菌量が多くリンパ濾胞過形成の著しい状態が遷延した場合にリンパ腫の発生リスクが増すことが推測された。そこで、各症例のリンパ球の増殖能をT・Bのサブセット別に定量的に解析し、比較検討することにした。 H.p陽性例65例のうち、リンパ濾胞過形成の強い慢性濾胞性胃炎症例(FG群)20例と、FG群と他の点では類似しているがリンパ濾胞過形成があまり見られない非萎縮性活動性胃炎(AG群)9例、および低悪性度胃悪性リンパ腫(ML群)4例の3群間において、小弯一本のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて、Ki67およびCD3/L26による免疫二重染色を行い、単位粘膜長当たりの二重陽性細胞数を計測することにより、胚中心以外でのリンパ球増殖能をT・Bのサブセット別に定量的に解析して比較検討した。 その結果、Ki67-CD3二重陽性細胞数は二次リンパ濾胞数と正の相関を示し、FG群で最も高い値を示した。L26-Ki67二重陽性細胞数はML群で有意に高い値を示し、FG群はML群とAG群の中間的な値を示したが、FG群とAG群との間で有意な差が見られなかった。 以上の結果より、濾胞性胃炎は、主としてH.p感染によってT細胞が活性化されることに起因した病態であり、必ずしもB細胞の異常な活性化に結びつかないことが示唆された。胃悪性リンパ腫の発生への関与を考える上では、胚中心以外でのB細胞の活性化の状態に焦点を絞ってさらに検討する必要があると考えられた。
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