1.病理組織形態学的検索;(1)胃粘膜リンパ組織におけるリンパ濾胞の過形成とその構築に関して:胃粘膜におけるリンパ濾胞の過形成は、主としてヘリコバクター・ピロリの感染が原因となっていることが明らかにされた。また、リンパ濾胞の構成成分としてCD4陽性のリンパ球の小集塊が存在することが新たに明らかとなり、リンパ濾胞の形成に重要な役割をはたしていることが示唆された。(2)胃粘膜リンパ組織におけるB細胞およびT細胞の増殖活性に関して:胚中心外でのB細胞の増殖活性は、胃悪性リンパ腫症例で有意に亢進しており、濾胞性胃炎症例は、リンパ腫症例とリンパ濾胞過形成のみられない活動性胃炎症例との中間的な値を示した。B細胞の増殖活性と、リンパ濾胞数との間には明らかな相関はみられなかった。一方、T細胞増殖活性は、濾胞性胃炎症例で有意な亢進を示し、二次リンパ濾胞数と正の相関を示した。(3)慢性濾胞性胃炎と胃悪性リンパ腫の病態の相違に関して:濾胞性胃炎は、主としてヘリコバクター・ピロリ感染によってT細胞が活性化されることに起因した病態であり、必ずしもB細胞の異常な活性化に結びつかないことが示唆された。2.PCR法による免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成の検索;今回の検索では、胃炎症例においてclonalityが証明されるような病巣を見いだすことはできなかった。今回使用した手術材料では、従来報告されている新鮮生検材料に比較して、検出感度がかなり劣ることが、おもな原因と考えられた。3.以上の検索結果から、リンパ濾胞の過形成が必ずしもB細胞の増殖活性亢進を反映していないことが明らかとなり、濾胞性胃炎が悪性リンパ腫発生に直接的には関与していないことが示唆された。今後は、胃悪性リンパ腫の前駆病変を抽出するために、リンパ濾胞過形成の強さにはこだわらず、胚中心外でのB細胞の増殖活性亢進をより強く反映する因子を検索したい。
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