1.消化管癌におけるヒストンのアセチル化 胃癌についてアセチル化ヒストンH4の抗体を用いて検討すると、胃癌の66%、胃腺腫の46%、大腸癌の78%、大腸腺腫の30%において、アセチル化状態の低下が認められた。胃癌細胞株をHDAC阻害剤trichostatinA(TSA)で処理すると、増殖抑制とアポトーシスの誘導と同時にp21、CBP、BAK、サイクリンEなどの発現が誘導された。胃癌細胞株にdemethylase(MBD2)を遺伝子導入すると、メチル化によって抑制されていたCD44及びp16の発現が誘導されるとともに、HDAC1の発現が抑制された。同様の発現誘導は、TSAによっても認められた。従って、消化管癌の発生には、ヒストン低アセチル化とDNAメチル化の相互作用により、増殖やアポトーシスに関連する遺伝子の発現変化が関与するものと考えられた。 2.消化管癌におけるテロメラーゼとテロメアDNA関連蛋白 テロメラーゼは、胃癌および大腸癌の殆どに強い活性が認められ、TERTの発現とテロメラーゼ活性は比較的よく相関していた。TERTの発現は、前癌性病変においても認められた。テロメアDNA結合蛋白TRF1、TRF2およびTankyraseは、胃癌症例の50-60%において、癌部で高い発現が認められた。TRF1を活性化するTIN2は、胃癌の30%で過剰発現し、TRF2を介してテロメアに局在するhRAP1は65%において発現が亢進しており、TRF2の発現と相関していた。テロメア末端のループ構造とテロメア伸長反応に関与するMRE11、RAD50、NBS1はそれぞれ、65%、70%、80%の胃癌で過剰発現していた。 3.ヒストンのアセチル化とテロメラーゼとの関係 胃癌では、ヒストンの低アセチル化とTERTの発現・テロメラーゼ活性が認められ、これらの相互作用が、癌の初期発生に重要な役割を担っているものと考えられた。
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