これまでの研究結果から薬剤の種類に関わらず、薬剤耐性ガン細胞株では薬剤耐性獲得に伴い種々の熱ショック蛋白(HSP)の発現も増強し、多剤耐性の一部に関わっていることが明らかとなった。本年度の研究目的はHSPの発現様式の違いをHSPの転写因子の発現パターンから解析を行い、どのような機構によって、種々のHSPの発現が制御されているかをRT-PCR法やGel-Shift法で検討した。また、各種HSPやHSP転写因子に対するanti-sense oligoprobeを用いた薬剤耐性解除の方法を検討した。その結果HSEの発現様式は発現されているHSPの種類には関係なく抗癌剤耐性細胞ではある一定レベルに発現されており、従って、HSEではなくHSFの発現様式がHSPの発現様式の決定に重要であると考えられる。しかし、残念ながらHSFの発現様式の相違については本研究の期間内では明らかにできなかった。さて、一方anti-sense oligoprobeを用いた薬剤耐性の解除については十数種類のoligoprobeを作成しその効果を検討した。そのうち3種類に耐性解除の効果が見られた。特にHSP27に対するanti-sense oligoprobeはその効果が著明でHSP27の発現を抑制し、それによると考えられる耐性解除効果も見られた。TGF-β耐性HACC細胞ではTGF-βのみならず抗癌剤をすべて解除することができた。さらに興味あることはceruleninのような脂質代謝障害物質との相乗効果がみられ、HSP27が何らかの形で脂質代謝の過程に関与している可能性が高いことがわかった。しかし、他のHSPのanti-sense oligoprobeにはこのような効果は観察されなかった。HSP遺伝子によるapoptosis関連遺伝子の直接的な発現効果は観察されなかったが、HSP70やHSP27の遺伝子導入後にはBAX遺伝子の発現の減弱が見られた。この効果が直接HSP遺伝子によって引き起こされたものか否かは今後さらに検討を要する。
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