研究概要 |
免疫グロブリン(Ig)重鎖アイソタイプスイッチ(IS)はB細胞成熟の重要なイベントである。本研究では成熟B細胞性白血病(mature B-cell leukemia,MBL)診断の精度向上を目指して、Hairy cell leukemia(HCL)及びそのバリアント(HCLv)を始めとする各種成熟B細胞性白血病におけるIS能について検討した。 (1)各種MBL細胞の抗CD40抗体刺激によるIgEへのISの誘導が白血化瀘胞性リンパ腫を除く各種MBL細胞で確認された。 (2)多様なIg重鎖発現を特徴とするHCL6例,HCLv3例を対象に、IS関連遺伝子の活性を示すプロモーター配列の脱メチル化の検討を行った。HCLの50%にサイクリンD1遺伝子プロモーター配列の脱メチル化を認めたがHCLvでは脱メチル化は検出されず、HCLVの67%にPAX5遺伝子プロモーター配列の脱メチル化が認められる一方,HCLでは16%のみに認められる等HCL細胞とHCLV細胞の活性化状態の違いが示唆された。 (3)HCL9例とHCLv3例の間にIg重・軽鎖発現パターンの差は無かったが、両者ともIg重鎖VH遺伝子に生じたsomaticmutation(SM)頻度が5%以上の例ではIgG単独発現が有意に多く、HCL,HCLVのIgHアイソタイプスイッチ機構は正常B細胞と同様に、胚中心でのB細胞成熟過程に依存していると考えられた. (4)また、HCL/HCLv細胞ではλ鎖発現もVH遺伝子変異頻度5%以上の例に限られ,ISのみならず軽差発現もVH遺伝子のSM機構と関連している事が特徴的と考えられた。 (5)しかし、HCL5例/HCLv3例を対象としたIg軽鎖遺伝子配列解析では,軽鎖遺伝子SM頻度はVH遺伝子SM頻度・Ig重鎖・軽鎖発現と関連せず、HCL/HCLv細胞の軽鎖発現はDNAレベルではなく、転写ないし翻訳レベルで調節されている事が示唆された。 以上から、HCL-HCLv細胞に見られるIg発現様式の多様性は、腫瘍細胞が症例毎に様々な成熟段階にある事を反映しており、B細胞成熟過程のモデル疾患となりうるものと考えられた。
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