研究概要 |
12年度は、1)ヒト肺癌の手術材料での病理学的検索、2)11年度に樹立したヒト肺癌培養細胞株等を用いた系でのcyclin,cdkの潜在的機能解析を行った。 1(1)ヒト肺癌200例の免疫染色から、cyclinA陽性例は、どの組織型でも予後不良であったが、cyclinE陽性例は腺癌においては予後不良、扁平上皮癌では予後良好であった。この機序として、cyclinEの発現量は分化度の低い予後不良な症例で高く、腺癌ではそれが活性型の核内蛋白として免疫染色に反映されるが、扁平上皮癌では低悪性度の、発現レベルの低い癌でも分解能の低下のためより多量に蓄積し、免疫染色で陽性となる事が明らかとなった(2000年、第89回病理学会発表、第23回国際病理学会発表)。 1(2)cyclinA,Eの免疫染色は軟部肉腫でも診断上有用であった(Am.J.Pathol.2000)。 2(1)PC12のNerve growth factorによる分化はcdk2,cdc2単独の過剰発現で阻害されるが、分化誘導にはcdk2,cdc2両方の活性の抑制が必要であり、この細胞の分化はcdc2,cdk2両方にredundantに制御されている事が予想された。(J.Biol.Chem.2000,第59回日本癌学会、第23回日本分子生物学会発表) 2(2)PC12,肺小細胞癌7株、我々が樹立した小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、血球系、RB蛋白質が不活化した細胞株(Hela,Saos2)を用いて種々のcyclins,cdkの潜在機能を検索した結果、どの株でもcdk4,cyclinD1の過剰発現により、細胞はアポトーシスに陥る事が明らかとなり、細胞の普遍的なアポトーシスのメディエーターである事が予想された。(2000年、第59回日本癌学会、第23回日本分子生物学会発表) 1)の肺癌の病理学的検討結果は、診断上の付加価値を加えるデータで臨床的意義があり、2)の細胞学的解析結果はcdk2,cdc2の抑制による分化誘導、cdk4,cyclin D1によるアポトーシス誘導等の将来の遺伝子治療の可能性を示唆するものと考とている。
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