研究概要 |
本研究では、新たな肺癌の予後診断、治療法への応用を目的として1)肺癌材料での免疫染色による病理学的検索、2)培養細胞株でのcyclin, cdk蛋白の過剰発現、抑制による形質変化を解析した。神経内分泌系腫瘍としてラット褐色細胞腫のPC12も用いた。 1(1).ヒト肺癌200例の免疫染色による検索では、cyclin A陽性例はどの組織型でも予後不良であったが、cyclin E陽性例は腺癌では予後不良、扁平上皮癌では予後良好であった。これは、cyclin Eの発現量は低分化の予後不良な症例で高く、腺癌ではそれが活性型核内蛋白として免疫染色に反映されるが、扁平上皮癌では低悪性度の、発現レベルの低い癌でも分解能の低下のため多量に蓄積し、免疫染色で陽性となるためであることを明らかにした(2000年、第23回国際病理学会他、発表)。 1(2)cyclin A, Eの免疫染色は肉腫でも診断上有用であった(Am. J. pathol.2000)。 1(3)cdk-inhibitor(p21,p27)は一定量の存在でcyclin-cdkを活性化し、その活性が腫瘍の悪性度を規定する事を明らかにした。(Am. J. Pathol.2000,Int. J. Cancer2001)。 2(1)手術例から2株の大細胞神経内分泌癌、3株の小細胞癌を樹立した。 2(2)cdk2,cdc2のの高発現によりPC12のNGF (nerve growth factor)による分化は阻害される。逆にNGF非存在下で分化を誘導するにはcdc2,cdk2のキナーゼ活性を同時に抑える必要がある事を明らかにした(J. Biol. Chem.2000,第22回日本分子生物学会発表)。 2(3)上記肺癌細胞株でcdk4,cyclin D1の過剰発現により細胞はアポトーシスに陥る事より、アポトーシスのメディエーターである事が予想された(2000年、第23回日本分子生物学会他、発表)。 2(4)RB蛋白質不活化細胞では、cdk4/cyclin D1のみならずどのcyclin, cdkの過剰発現でもアポトーシスが誘導された(第60回日本癌学会,第24回日本分子生物学会発表)。 1)の結果は臨床的意羲と、組織型による蛋白分解の機序の差異を示した細胞生物学的意義を有し、2)の結果は腫瘍の分化誘導、アポトーシス誘導、またそこでの癌抑制遺伝子の関与等の将来の遺伝子治療の可能性を示唆するものと考えている。
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