研究概要 |
発生過程でプログラムされた細胞の死として、アポトーシスは定義される。アポトーシスの機構を考慮しながら,bcl-2ファミリーのひとつであるヒトEAT遺伝子を標的分子として各種疾患の機序またその治療を押し進める上での分子基盤を明確にすることは,我々自身によりEATを単離したことを考えあわせると,極めて重要な意味がある.EATは,種々の抗癌剤の耐性能を上昇させる.一方,EATがp53によらない経路でシスプラチンによるアポトーシスを抑制することを明確に示した.このことは,p53の変異の有無に係わらず,腫瘍に対しEATが抗癌剤の耐性能を寄与していることを意味する.さらにシスプラチンが適応される睾丸腫瘍,卵巣腫瘍,前立腺癌,神経芽腫において,腫瘍の予後とEATの発現量の関係を明確にした.EATの発現が明らかに上昇している腫瘍に対して,EATに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドを用いた治療を試みている。ヒトEATトランスジェニック・マウスでは,EATがアポトーシスを抑制することで,膵ラ氏島の過形成を生じた.EATによって過形成となった膵ラ氏島は,糖負荷試験によって正常の反応を示し,EATはβ細胞の機能を保ったまま,アポトーシスは抑制する.この膵ラ氏島のβ細胞のアポトーシス抑制機構より詳細に明らかにした.近年,抗癌剤,特にシスプラチンによるアポトーシスについては詳細かつ正確に現在研究が進み,そのシグナル伝達系も明らかになってきている.従来の考え方である転写を介したシグナル伝達ではなく,放射線照射ならびにシスプラチン投与によるEATの修飾(特にリン酸化)がJNKおよびp38によって生じることを現在明らかにしつつある.
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