研究概要 |
骨肉腫は高頻度に肺転移を来す.がん細胞の転移形成には、免疫監視機構からの回避が必須のプロセスと考えられている。平成11年度の研究から、骨肉腫細胞はFas ligand(Fas L)の過剰発現により、in vivoにおいて腫瘍組織浸潤性免疫監視リンパ球に対しアポトーシスを誘導し、免疫監視機構から積極的に回避している可能性が示された。平成12年度は、骨肉腫細胞の免疫監視細胞からの回避機構におけるFas遺伝子の発現及び機能異常に注目し検討を行ない以下の結果を得た。また、骨肉腫に対する主要な抗癌剤の一つであるアドリアマイシンの副作用(心筋症)の発症機序をFasに注目し解析した。 1.ヒト骨肉腫細胞株(HOS,OST,Saos2)及びヒト骨肉腫腫瘍組織3例におけるFas遺伝子のmRNAレベルでの発現がRT-PCRにより検出された。発現されたFas遺伝子mRNAに構造的異常がないことがシークエンスにより確認された。 2.同骨肉腫細胞及び腫瘍組織におけるFas Lの蛋白レベルでの発現がWestern blot法により示された。骨肉腫組織では膜型及び可溶型Fasが検出された。一方、ヒト骨肉腫細胞3株とも可溶型Fasの発現が優勢で、膜型Fasの発現はOSTで検出されるのみであった。膜型、可溶型両型Fasともその分子量には明かな異常は見られなかった。 3.抗Fas抗体を用いた蛍光抗体法によりヒト骨肉腫細胞OSTでは細胞膜にFasの局在を検出したが、他の2株では検出されなかった。免疫組織化学によりヒト骨肉腫腫瘍組織22例中17例(85%)で骨肉腫細胞におけるFasの発現が観察された。陽性例中11例(65%)は膜型が優位、6例(35%)では発現は細胞質内に局在していた。 4.発現強度、発現頻度、局在部位と骨肉腫の化学療法に対する感受性や予後、TUNEL法による腫瘍細胞標識率との間に明かな関連は認められなかった。 5.アドリアマイシン心筋症の発生にFasの過剰発現を介したアポトーシスの亢進が関与していることが明らかになった。 平成11、12年度の研究結果を総合すると、ヒト骨肉腫は腫瘍発生早期からFas L発現形質を獲得し細胞傷害性Tリンパ球をカウンターアタックすると共に、Fas発現の低下や局在異常、可溶型Fas発現などを介し免疫監視機構から回避していることが示唆された。
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