研究概要 |
小円形細胞肉腫は小円形細胞が主体をなす腫瘍で,発生母地が多彩であり,病理診断に難渋することが多い。c-kitはチロシンキナーゼ型受容体で,未熟な造血細胞,カハール介在細胞などの分化,増殖を制御し,小円形細胞像を伴う消化管間質腫瘍(GIST)に発現をみる。GISTではc-kitのexon 11に変異が報告されているが,c-kitの膜貫通前後部分であるexon9〜11のmRNAの変化を横紋筋肉腫,神経芽腫,神経鞘性腫瘍,平滑筋肉腫などで比較検討した。 GISTでは検索した26例全例が免疫染色にてc-kit陽性を示し,24例にexon 9〜11の変異を認め,20例にexon 11の欠失や挿入がみられた.点突然変異は散発性広範囲に,挿入はexon 9にAla-Tyr(2例),exon 11にThr(5例)としてみられ,欠失はexon 11のcodon 550〜560間に集中していた(13例). 免疫染色でc-kitの発現をみない横紋筋肉腫8例中7例,平滑筋性腫瘍9例中7例,神経鞘性腫瘍9例全例,神経芽腫1例にexon 9〜11にGISTと同様の変異を認めた.GISTに特異的なexon 11の欠失や挿入は,横紋筋肉腫5例,平滑筋性腫瘍3例,神経鞘性腫瘍5例,神経芽腫1例に検出された。GISTと同様にこれらの腫瘍にexon 9〜11の変異をみたことは,非上皮性腫瘍の発癌機構に共通した変化の存在を示唆している。検出された遺伝子変異のすべてはframeshiftを伴わないもので,変異蛋白が形成され,リガンド非依存性にリン酸化を促進すると思われる.しかし,GIST症例ではc-kitの産物蛋白の発現をみるが,非GIST症例では観察されない。リガンド非依存性のリン酸化の有無を含めたc-kitの発現と機能に関する検討が今後必要であり,腫瘍の発生,分化,さらに病理診断に応用されると思われる。
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