研究概要 |
本年度は当初の計画に従い,以下の実験を施行した. 1)30例のヒト幽門部胃粘膜から腺管を分離収集し,4%パラホルム固定後凍結保存した.これらの分離腺管は,おおまかではあるが,化生の有無と程度,亜型(胃腸混合型,腸単独型)について調べてある. 2)上記の各症例に関し,隣接部粘膜の10%ホルマリン固定組織標本を作成し,化生の程度と亜型をチェックすると共に,遺伝子解析用に未固定粘膜も採取・凍結した. 3)1)のごとくdifferential displayに用いるサンプルの調整は進んでいる.厳密に化生の亜型と遺伝子発現との関係を調べるには,一腺管ごとにRNAを抽出後cDNAを調整する必要がある.これまでのところ,単一腺管からのcDNA合成が手技的に安定していないので,まず粘膜全体を対象として4)の解析を行った. 4)2)により確認した化生(-),中等度,高度の症例を各数例選出し,RNAが分析可能か否かを確認する目的で,粘膜全体を用いてhouse keeping geneであるβアクチンと,大腸・小腸上皮細胞の分化誘導因子とされる,ホメオボックス遺伝子Cdx-1・2を対象としてRT-PCRを施行した.まず化生粘膜よりRNAを抽出してcDNA合成し,化生粘膜におけるCdx-1・2mRNAの発現レベルを定量的RT-PCR法により解析した.大腸粘膜のそれと比較したところ,化生粘膜では大腸粘膜における発現よりも高いレベルであること,化生の程度に応じて発現レベルが上昇していることを見い出した.このことから,胃粘膜における腸上皮化生の出現には,腸の分化誘導に関わっているある種の遺伝子群が関与していることが明らかとなった.現在,症例を増やしてデータを追加するとともに,化生の亜型との相関を検討中である. 5)遺伝子機能の解析に有用と思われる,ヒト胃癌細胞株を樹立した.
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