研究概要 |
[目的]慢性肝疾患において,線維化の進行に伴い細胆管が増生する現象が観察されている.成因の一つとして肝細胞の細胆管化生が考えられているが,メカニズムは不明である.我々は,肝細胞凝集塊をtype Iコラーゲンゲル中に包埋しinsulin,EGF存在下で培養すると,凝集塊から胆管特異的なcytokeratin(CK)19の発現を伴う樹枝状突起が伸長することを報告し,細胆管化生のin vitroモデルとして有用であることを示した.本研究において我々は,このモデルにおける肝細胞の形態形成およびCK19発現に対する蛋白チロシンリン酸化の影響を検討する. [平成11年度の実績](1)蛋白チロシン脱リン酸化酵素阻害剤sodium orthovanadate(OV)は蛋白チロシンリン酸化を持続的に亢進させ,肝細胞の胆管様樹枝状形態形成とCK19の発現を著明に促進した.(2)肝非実質細胞(NPC)の培養上清(CM)も肝細胞の樹枝状形態形成を促進したが,OVの場合に比較し,突起はより繊細で細かく分岐し,肝細胞索様構造をとる傾向がみられた.また,Kupffer細胞由来因子であるIL-6もCMと同様の効果を示した.CMとIL-6は,OVと対照的に,培養に伴うCK19の発現を強く抑制したが,蛋白チロシンリン酸化に対する影響は軽度であった. [考察と今後の予定]CK19の発現を伴う肝細胞の胆管細胞様分化に蛋白チロシンリン酸化の亢進が関与している可能性が示唆された.また,IL-6を含むNPC由来液性因子がCK19発現を抑制し,肝細胞としての分化形質の維持に働く可能性が示唆された.今後は,二次元電気泳動,免疫沈降などを用い,胆管細胞様分化に関わるリン酸化蛋白について検討する.また,このような分化過程における転写因子の役割や接着分子の変化についても研究を進めていく予定である.
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