レトロウイルス誘発性疾患のモデルとしてマウスフレンド白血病ウイルス(FLV)の系を用いて遺伝子治療モデルを確立する目的で実験を行った。導入遺伝子は野生マウスより見いだされた宿主遺伝子の一つでecotropicマウス白血病ウイルス(MuLV)に抵抗性を示すFv-4^r遺伝子である。 平成11年度には発現効率の良い遺伝子導入骨髄キメラマウス作製条件を検討し、遺伝子導入マウスのウイルス抵抗性について明らかにした。 平成12年度では遺伝子導入を行った際のFv-4^r遺伝子の作用機序について検討した。FLV-ENV-GFPを用いた実験から、Fv-4^r遺伝子産物はレセプター干渉作用によって抵抗性を発現していることが示された。 平成13年度はヒトのレトロウイルス感染性疾患への応用という観点から、免疫系の作用とウイルス抵抗性について検討を行った。免疫系が抑制された宿主においても遺伝子導入が有効であるかどうかを検討するため、胸腺摘出を行った宿主マウスに骨髄移植を行って、ウイルス抵抗性が得られるかどうかを検索した。胸腺摘出骨髄移植マウスはT細胞系の機能不全のため著明な免疫抑制状態に陥るが、Fv-4^r遺伝子を導入した骨髄細胞を移植すると、通常のマウスヘの骨髄移植と同等の抵抗性を発現することがわかった。即ち、Fv-4^r遺伝子を用いた遺伝子治療ではレセプター干渉作用によってウイルスの感染が阻止されているので、宿主が免疫抑制状態にあっても十分な治療効果が得られる。このことはエイズをはじめとするヒトのウイルス感染性疾患においても、レセプター干渉を目指した遺伝子治療が有効となりうることを示している。 以上、本研究の遂行によってレセプター干渉作用によりウイルス抵抗性を誘導しようとする遺伝子治療モデル系は有効であるとともにヒトの疾患への応用も可能であり、有意義なレトロウイルス治療モデルを確立することができた。
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