研究概要 |
肝細胞増殖因子活性化因子(Hepatocyte Growth Factor Activator,HGFA)は肝細胞増殖因子(HGF)を特異的に活性化させるセリンプロテアーゼで、その活性化調節因子であるHGF activator inhibitor type-1(HAI-I)及びtype-2(HAI-2)とともに東京工大の喜多村らのグループによって発見された蛋白である。HAI-1,HAI-2はKunitz型と呼ばれるタイプのセリンプロテアーゼインヒビターで、Serpinと呼ばれるタイプのセリンプロテアーゼインヒビターが一旦プロテーゼと反応すると失活するのに対し、プロテアーゼと可逆的に結合できるのが特徴である。したがってKunitz型インヒビターは本来のインヒビターとしての働きより、プロテアーゼ結合蛋白としてプロテアーゼの運搬や保護の役割を果たしたり、レセプターとしてプロテアーゼの細胞膜上への凝集の役割を果たしているか可能性がある。本研究ではHGFA,HAI-1,HAI-2遺伝子欠損マウスを作製し、生体内でのこれらの蛋白の機能解析とともに、Kunitz型インヒビターのインヒビターとしての作用以外の本来の機能を明らかにすることを目的としている。 本年度はまず、マウスHGF Activator,HAIー1,HAIー2 cDNA及びGenomic DNAをクローニングし(Biochim.Biophys.Acta,in press)、マウスHAI-1が実験大腸潰瘍モデルの治癒期に高発現してくることや(Am.J.Phys.,in press)、マウスHAI-2の新しいスプライシングバリアントを発見した(Biochem.Biophys.Res.Commun,255:740-748,1999)他、抗HAI抗体を用いた免疫組織学的検索により、HAIが再生上皮や癌細胞浸潤先端に検出され(J.Histochem.Cytochem.,47:673-682,1999)、特に大腸がんにおいて、全体的には発現が減弱しているものの、浸潤先端では逆に過剰発現していることなどを見い出した。(Cancer lett.,148:127-134,2000)(他一遍投稿中)。現在、クローン化したマウスHGFA,HAI-1,HAI-2 genomic DNA にmutation を加え、遺伝子を不活性化したtargeting vector を作製し終えた段階で、以降は熊本大学の山村教授らのグループの協力を得られることになったので、今春にはES細胞にエレクトロポーション法によって遺伝子導入する予定である。予定より数ヶ月遅れているが、次年度は相同組み替え体をポジティブネガティブ選択法によって選別、8細胞胚に注入した後、偽妊娠マウスに移植しキメラマウスを得られる予定である。計画年度内にノックアウトマウスが得られるよう全力を尽くしている。
|