研究概要 |
私達は、肺神経内分泌細胞の分化制御に、神経細胞の分化調節機構と同様に正と負の塩基性helix-loop-helix(bHLH)因子が重要であることを、これらの正(Mash1)と負(Hes1)の遺伝子欠損マウスを用いて明らかにしてきた。 本年度は、マウス胎仔肺細胞の初代培養に、Mash1遺伝子をlipofectamine法で導入し、Mash1が神経内分泌細胞の分化に関わっていることを検討した。Mash1遺伝子導入後、培養細胞には、3日でDelta-like 1が、6日ではCalcitonin-gene related peptideの発現が見られ、Mash1遺伝子導入細胞が神経内分泌へと分化することを示すことができた。 次に、これら転写因子(特にHes1)の発現を制御しているNotchシグナル系の気道上皮細胞の分化制御における意義を明らかにすために、Notch1-4およびNotch ligand(Delta-like1,Jagged1,2)の発現をマウス肺組織を用いて、Northern blotting法および免疫組織化学的に検討した。Notch1-3は、胎仔肺初期より発現し、発育とともに発現は増加し、免疫組織化学的には、非神経内分泌細胞に染色陽性像が認められた。Notch4は、肺の毛細血管の発達とともに発現の亢進が認められた。Delta-like1は神経内分泌細胞に、Jagged1,2は非神経内分泌細胞に染色陽性像が認められた。さらに、Mash1遺伝子欠損マウスでは、Delta-like1の発現が見られず、Hes1遺伝子欠損マウスでは、Notch1,Jagged1の発現低下が見られた。 以上のように、マウス気道上皮細胞の分化決定には、bHLHとNotchシグナル系の関与が想定されたが、今後は活性型Notch遺伝子導入による分化形質変化を検討することでNotchシグナル系の意義やヒト肺癌でのこれらの因子の変化を明らかにしてきたい。
|