研究概要 |
補助金を交付された最終年度の平成13年度は,眼トキソカラ症の動物実験モデルとして今回の交付金申請中に新しく発見したスナネズミ(Meriones unguiculatus)を用いて,眼内移行経路を詳細に解析した。 イヌ回虫の幼虫がどのような経路を通って網膜内に出現するかについてはこれまで眼球の解剖学的特徴から,血行性,神経行性の2通りがあると考えられて来たが,これを裏付ける実験成績はいままで報告されていなかった。これまで2年間にわたる観察から,網膜病変は感染後4日目頃に現れる出血病巣と,それよりも遅れて出現する出血病巣があり,遅れて出現する出血病変は2カ月後に突然現れることもあった。そこで,これらの遅れて出現する出血病巣は,いったん脳内に侵入した幼虫が神経経路を伝って網膜に繰り返し侵入するために起こるのではないかとの仮説のもとに,スナネズミの大脳に生きた幼虫を直接注入し,網膜病変が出現するか否かを観察した。 注入方法は,頭皮を切皮後23ゲージの注射針を用いて頭蓋骨を穿刺し,生きた幼虫約300隻を17匹のスナネズミの大脳内に直接接種した。17匹中1匹は24時間以内に死亡したが,生存した16匹を対象に眼底を経時的に観察した。 その結果,出血病変は幼虫注入後6日目に初めて出現し,16匹中8匹(50%)に出血病巣を認めることができた。また,1匹については出血病変は認められなかったが網膜上に幼虫を確認することができた。まったく病変を認めることができなかったのは7匹(43%)であった。病理組織学的に,視神経と視交叉に幼虫の断端を認めた。また,視神経の周囲には好酸球浸潤を伴っていた。このことから,大脳内の幼虫は視交叉を通り視神経から網膜にはいることが実験的に確かめられた。 一方,内伏在静脈から直接生きた幼虫を注入した実験では網膜に幼虫の出現を認めず,また出血性病変も認めなかった。
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