研究概要 |
中南米にみられるシャーガス病は心臓型と消化管型という2病型があり、これらは地理的分布を示し前者がラテンアメリカ全域に、後者は主として南米にみられる。この病型発現の機序について、申請者らは病原虫Trypanosoma cruziの遺伝的形質が関与しているのではないかとの仮説をもとに、アイソザイムによる解析をおこなってきた。68株の中米および南米産T.cruziを調べたところ、系統と病型の地理的分布が重なり病型発現に原虫の遺伝的形質が関与していることが示唆された(Higo et al.,1997)。一方病型や薬剤に対する感受性が原虫の遺伝的系統に影響を受ける場合、これらの原虫がお互いに遺伝子を交換するかどうかは重要な問題である。T.cruziに対しては、実質的には遺伝子を交換していないといわれているが、厳密な遺伝学的研究は少ない。申請者らはアイソザイムのデータを集団遺伝学的に解析し、遺伝子交換の可能性も否定できないという結果を得ている(Higo et al.,1997,2000)。 これらの結果を踏まえ、本研究においては調査が手薄であった南米株24株を新たに入手し、123株のアイソザイムのデータを集団遺伝学的に解析して原虫の系統的および病型の地理的分布を比較した。遺伝子型解析をおこない、UPGMA法により系統樹を作成した結果、全部で25ザイモデムが確認された。南米株において遺伝的多様性が顕著で、Group 1が多数のザイモデムに分かれ、Group 3も大きな2系統から成ることが判明した。今回の解析により原虫の系統と病型の地理的分布の類似性が一層あきらかとなり、T.cruziの遺伝的形質による病型発現の可能性が強く示唆された。またアイソザイムパターンの解析により、系統間交接によるハイブリッドが確認され、遺伝子交換の可能性が示唆された。
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