東洋区およびオーストラリア区のブユ類の形態学的および分子系統学的な検討を行い、次の成果を得た。 1.形態学的な新知見:GomphostilbiaとMoropsの主要2亜属を区別する新たな形質として、雌成虫の受精嚢の形態、および雄成虫の生殖腹板後面の微毛の有無が重要であることが示された。Gomphostilbia亜属ではイリアンジャヤの数種で、雌の生殖叉の特殊化が新たに見い出された。Morops亜属では、雌成虫の生殖器の形態を初めて観察し、種によっては受精嚢管の肥大化および生殖叉末端部に微毛を有するなどの他亜属では見られない特徴を明らかにした。Wallacellum亜属を特徴づける新たな形質として、雌雄成虫の後脚basitarsusの形態、雄成虫の生殖腹板後面の微毛の有無、さらに蛹の頭部および胸部表面の刺の配列が重要であることが示された。本亜属の数種の蛹の頭部に認められていたantennal sheath上の棘状突起は、Morops亜属farciminis種群の数種にも存在することが初めて分かった。 2.分子系統学的な新知見:Morops亜属12種群のうちイリアンジャヤのfarciminis(1種)、clathrinum(1種)、oculatum(3種)、papuense(1種)、ソロモンのsherwoodi(1種)、およびフィリピンのbanauense(2種)の6種群について、ミトコンドリア16SrRNA領域517bpの塩基配列を決定し、系統樹を作った。その結果、最初の3種群は近縁関係を示したが、他の種群はこれらとは離れていた。特に、sherwoodiおよびbanauense種群は、Gomphostilbia亜属に近い位置関係を示した。同様にNevermannia亜属のfeuerborni(4種)、ruficorne(2種)、vernum(4種)の3種群およびどの種群にも属さないS.konoi間の系統関係を調べた。その結果、いずれの系統樹においても各種群はクラスターをつくった。vernum種群とfeuerborni種群は近縁関係を示したが、ruficorne種群はvernum種群、feuerborni種群とは離れ、Morops亜属と近い結果となった。S.konoiはどの種群ともかけはなれていた。形態的にもruficorne種群およびS.konoiは他のホソスネブユ亜属の種とは生殖器の構造が著しく異なることなどから、本亜属の系統分類には再検討が必要と思われる。Wallacellum亜属は形態的に近いと推定されたMorops亜属をはじめ、他の亜属とはかなり懸け離れていることが判明した。Gomphostilbia亜属のなかでフィリピンにのみ分布が知られているbaisasae種群はbatoense種群とは近縁関係を示したが、ceylonicum種群およびvaricorne種群とは離れていた。
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