研究概要 |
マウスにおけるヴェネズエラ糞線虫感染の系において、マウスがこの寄生虫を排除するのは感染後に腸管粘膜に現われる粘膜肥満細胞が成虫の粘膜への侵入を阻止するためであることを証明した。ヴェネズエラ糞線虫の成虫は宿主粘膜への侵入に際して口端からヘパリン結合性の接着物質を分泌しており、この物質に肥満細胞顆粒中のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが結合して腸管上皮細胞への接着が阻害される。 ヘパリン結合性接着物質は、若い虫体からも排除の時期の虫体からも全く同じように分泌され、虫体の粘膜に侵入する能力も感染後の日数で差はなかった。このことは、虫体は著しいダメージを受けて腸管粘膜から脱落するのではなく、粘膜への侵入を阻害されて排除されるという結論を支持する。若い虫体と排除の時期の虫体の抗原には共通して分子量約42kDのヘパリン結合性タンパクが存在していた。接着物質に対するウサギのポリクローナル抗体もこのタンパクを認識しており、このタンパクは分泌された接着物質の成分であると考えられた。アミノ末端のペプチド配列にヒトのムチンタンパクと共通する配列が検出されたが、更なる検討が必要である。 接着物質に対するモノクローナル抗体(286-3D7,IgG1,κ)は接着物質の高分子構造を認識し、虫体の接着物質を介したプラスティック表面への結合、接着物質と腸管上皮細胞の結合を阻害した。また、虫体のマウス粘膜への侵入にも阻害的に作用した。この抗体を用いた免疫組織染色によって、ヘパリン結合性接着物質が虫体周囲のトンネル壁に存在していることが明らかにされ、接着物質は腸管上皮への結合だけに用いられているのではなく、粘膜への侵入過程全般においても重要な働きをしていることが示された。モノクローナル抗体が虫体の粘膜侵入を阻害したことは、接着物質に対する適切な免疫応答を誘導すれば感染に対して防御効果があることを意味する。
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