研究概要 |
先天性シャーガス病がボリビア共和国サンタクルズ県周辺で,周辺諸国と比べて著しく多いことは既に血清疫学的調査で明らかにした.Trypanosoma cruzi(T.cruzi)抗体陽性妊婦が妊娠期間中何らかの機会に虫血症を起こし,虫体が胎児に移行した可能性は高いと考える.しかし本疾患のこの第一の感染ルートと考えられる経胎盤感染についてはいまだに不明な点が多い. こうしたことから,ボリビア・サンタクルズ地区での先天性シャーガス病児を出産した例についての母子を取り巻く生活環境,及び社会的環境要因についての調査を継続すると共に,主たる媒介昆虫の駆除対策への提言,母子衛生教育環境作りの推進を検討した.その結果,先天性感染児を出産した母親は,そのほとんどが妊娠以前にT.cruziの感染を受けていたことは現在の生活環境から明らかであった.しかし彼女等が幼少期に媒介昆虫Triatoma infestans(T.infestans)との接触を認め,免疫学的検査IHA,IFAではT.cruzi-IgG抗体陽性で,慢性感染を示唆する者であった.中でも高い抗体価を示す母親はXenodiagnosis(媒介体診断)でも陽性の結果を示し,いまだに虫血症を示す本疾患のキャリアーであることが判明した.これはシャーガス病慢性感染者,特に妊婦に対する治療対策などを積極的に行なわない限りは,先天性感染児を無くすことは不可能であることを示唆した. また,本疾患の早期診断法としてのPCR法の検討をおこなったが,その結果は最も信頼性のあるXeno-diagnosisの結果と必ずしも一致するものではなく,PCR法が初期診断に有効かどうかは更に今後の検討を待たねばならない.一方,先天性感染児の治療後の予後判定ではXenodiagnoshisiの結果とも良く一致することから,予後判定には有効と考えた.また,現地で捕獲したT.infestansより分離した病原体T.cruziの病原性についてマウスを用いて検討した.その結果,病原性は弱いと考えられるが,虫血症は長期間に及ぶことが明らかで,現地の母親が慢性的に虫血症を示している結果とも相応し興味深く,更に今後の検討課題として残された.
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