1.Trypanosoma cruziの錘鞭毛期、無鞭毛期と、ヒト由来培養細胞株であるHelaおよびHT1080細胞を宿主細胞とするin vitro感染モデル系を用い、X線、紫外線、薬剤などのアポトーシス誘導因子に対する細胞死を観察した。アポトーシスに伴う細胞核の凝縮、染色体DNAの断片化を指標とし、感染、非感染細胞でアポトーシスが誘導された細胞の割合を比較したところ、X線、紫外線、過酸化水素、抗がん剤により誘引されたアポトーシスは感染、非感染細胞で差がなかった。しかし、TNF-αを用いて誘導した場合には感染細胞のアポトーシスが抑制された。以上の結果からトリパノソーマ感染によるアポトーシス抑制はdeath receptorを介するものであったことが予想された。 2.これまでの研究でT.cruzi感染はFas受容体を介するアポトーシスのシグナル伝達経路の初期過程を抑制することを明らかにした。そこで、アポトーシス関連分子、Fas受容体自身、アダプター分子であるFADD、カスペース-8、またアポトーシス抑制遺伝子産物、Bcl-2、Bcl-XLやp53などの発現量が感染細胞で低下していたが、宿主細胞表面における発現量はコントロールと差がなかった。その他のタンパク質では大きな差は認められなかった。 3.次にカスペース-8の酵素活性を測定したところ、感染細胞では顕著な抑制が認められた。以上の結果から、トリパノソーマ感染によるFasを介するアポトーシスの抑制はシグナル伝達経路の初期過程、特にカスペース-8を抑制する可能性が示唆された。
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